先生、思いっきり歌わせて!

受け持っていた2年生の授業をすべて終え、この学校に来るのもあと数日という時、
一人の男子生徒がやってやってきて
「先生、もう一度、最後にみんなで歌わせてください!」
「ん? もう授業は終わったでしょっ。」
「いえ、最後の授業では、先生が辞めると聞いて、驚いて、悲しくて泣いてしまって、歌えなかったんです。」
「…もう、そんな時間、ないでしょ?」
「修了式の日、体育館で歌わせて下さい。準備は僕らがすべてやります。先生はピアノを弾いてくれるだけでいいんです。」
「でもねー……」
「最後に、思いっきり歌わせてください、お願いします!」
「………。」
こんな言葉が生徒達から出てくることなど、予想もしておらず、驚いて、困惑して、不安になって、それだけでした。
こんな管理体制の強い学校で、生徒自ら何かをやるなんて、あり得ない。
ましてや、そんなことに許可が下りるはずもない。考えらない……。

 このことを友人に話し、「私、きっぱり断ったけどね!」と言うと、突然、その友人が怒り出しました。
「あなたは、生徒自らの考えで行動していく、そんな力を育てる教育をしたいと言い続けてたでしょっ。その為に、地元に帰るんでしょっ。生徒達がようやく動き出そうとしている時、どうしてそれを制するの!」

そして、さらに「他の先生達がどう思うかを気にしてる。大袈裟なことをしてほしくないって思ってる。それって自分のことしか考えてないってことだよ!」と。
この言葉はグサッと、私のど真ん中に突き刺さりました。確かに自分の立場だけ……。
「ちゃんと生徒達の気持ちを受け止めて!思いっきり歌わせてあげて!」

 こんなにビシッと叱ってくれる友人がいてくれること、ほんとに嬉しく思いました。危うく生徒達の思いを踏みにじるところでした。