浅かったなぁ

 荒れた中学校で,くたくたになりながら毎日、よく○○市での3年間のことを思い出していました。学校に行くことが楽しくてたまらず、日曜日の夜は「また1週間始まるっ!」と心浮きたち‥‥。そんな日々を送っていたことが、夢のように思えました。

 ただ○○市を去る直前に、二人の生徒が、それぞれに抱えていた事情を知った時、「私は生徒達のことをどれだけ理解していたんだろう」と、表面に表れる言動だけで生徒達を見ていた自分の浅はかさを、痛感させられました。

 合唱部に所属していたF子は、自分の感情を露わにすることがなく、穏かに友人達と接する生徒でした。その歌声はとても豊かで、エネルギッシュに歌う彼女の表情は、今でもしっかりと目に焼きついています。

最後の授業が終るたびに、生徒達が渡してくれるたくさんの手紙。その中からF子の手紙を読んだ時、愕然としました。「両親が離婚します」と一言、綴ってあったのです。両親がこの結論を出すまでの厳しい時間を、F子は胸を痛めながらも、全くその様子を見せずに学校生活を送っていたのです。その間、私はただただ“まじめな誠実な生徒”としか見ていなかったのです。あまりにも浅すぎる‥‥。

 

 N男には、手を焼いていました。授業中「イヤだ!イヤだ!」と、幼子のように駄々をこね、叱るとプイッ!とすねてしまう。どうすればいいのか途方に暮れ、ぶつかり合うことも度々でした。そのℕ男の成育歴を知ったのは、もうこの学校を去る間際のこと。複雑な家庭環境で育ち、親の愛情を知らないまま、養護施設に預けられたということでした。一方的に「○○しなさいっ!」「それはダメっ!」という言葉を浴びせかけるだけの私の指導が、彼の中に入っていくはずもありません。

 

 生徒達の近くにいるぞっ!なんて、自己満足に過ぎなかった‥‥、心の奥の重たさや葛藤なんて知る由もなかった‥‥と、この二人の生徒から問われたことは、その後の教育実践の柱の一本になりました。